外国人が日本人に恋心をいだかせた上で金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」。コロナ禍で人との出会いが減る中、その被害が続出しているという。会ったことも無いのに、なぜ金を出してしまうのか？そこには共通するだましのテクニックがあった。
詐欺の被害を訴える４０代の田口さん（仮名）。ネットで知り合った男から３７００万円をだまし取られたという。田口さんは、飲食店を経営しながら１０代の子供を育てるシングルマザー。新型コロナの影響で店の営業は自粛し、孤独感が募り『マッチングアプリ』を始めたという。「コロナ禍で人と出会う回数も減り、心の隙間を埋めたいと（登録した）」すると、モデルのような美男子から連絡が入る。モーセと名乗る外国人だった。モーセは、独身で身長１８１センチ、年収は３０００万以上と自らを紹介。マレーシア在住で日本語と中国語を話し、日本で就職する予定があるというのだ。
モーセは人の心を操るのが巧みだった。田口さんが「モーセは、どんな恋愛してたの？」とメッセージを送ると、「もう３年も恋をしていない。内向的な性格で知らない人と話すことが少ないからです」と返信。
恋愛が苦手で、誠実そうな人柄を印象づけるのだ。また、モーセはマメだった。メッセージを送れば、深夜でもすぐに反応。ある１日に田口さんとモーセが交わしたメッセージは、実に４０７回にも上った。田口さんはこう振り返る。「愛していないとここまで尽くせないと思っていた。自分の相談を聞いてもらったり、マメで親切だったんですよね」
しかし、なぜか、ビデオ通話は何度頼んでも拒否された。理由を聞くと、モーセはこう答えた。「私の祖父は冒険家で、崖の端でモーセとビデオ電話をしている間に祖父が落ちた。モーセはビデオ通話をするだけで祖父を思い出す」不自然な話ではあったが、田口さんはモーセを理解したいと考え疑うことをやめたという。
こうして２週間が経過すると、モーセは投資を勧めてきた。「私たちは家が必要です。モーセはあなたを、借りた家のなかに住まわせたくはありません」
“家の資金を作るために投資をしよう”そう言って、海外にあるカーレースのギャンブルのサイトを紹介されたのだ。インターネット上で１０台の車が走るレースがあり、１着と２着をあてるギャンブルだ。田口さんはモーセの指示に従い、１００万円を賭けると１３万円の利益が出た。これで十分だと田口さんは思ったが、モーセは別れ話をチラつかせながら、さらなる投資を求めてきた。「長くやりとりしていると愛情も入ってくるし、やっぱり（関係を）切りたくないと。こちらの切りたくないという思いにつけ込んでいる」
知り合ってからおよそ１か月。モーセから“東京にきた”と連絡があった。来日から２週間は隔離となり、その後、初対面となる予定だったという。モーセに会えると喜んだ田口さん。保険と預金を取り崩し、この時までに総額およそ３７００万円をサイトに入金していた。「誰に止められても彼のことを信用しちゃっていたので、本当に洗脳されているような状況ですよね」そして、ついに初対面の日がやってきた。奇しくもこの日は、モーセの誕生日だという。しかし、誕生日ケーキを買ってモーセを待つ田口さんに、突然モーセから「不法入国の疑いで警察に拘束された」と連絡が入る。警察官や、パトカーの写真を送り状況を説明するモーセ。あとで気がついたことだが、冬にもかかわらず写真の警察官の服は半袖。またモーセの写真も、画像検索すると中国人のモデルだった。
その時はそうとは知らず、モーセを信頼しきっていた田口さん。ギャンブルサイトから金を引き出そうとしたところ、突如サイト側から出金のためには１１００万円の税金が必要だと言われたのだ。田口さんがこれを警察に相談したところ、明らかな詐欺だと指摘された。モーセとギャンブルサイトは詐欺グループの仲間だと考えられるという。こうして田口さんは、３７００万円を失った。
国民生活センターによると
コロナ禍で国際ロマンス詐欺の被害は急増。しかし犯人の特定は難しく、金を取り戻すのは困難だという。警察庁などは、返金されないトラブルが多発しているとして、注意を呼びかけている。
（2021年11月1日「news every.」より）
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